夏への一歩を踏み出す五月。
どっしり大きな筍が店頭に並びます。
あまりの大きさに、
持ち帰るのも、茹でるのも、
考えただけで躊躇しがちですが、
季節に一度は味わいたいという心もあって
売り場の前で、しばし葛藤を繰り返すのもこの季節ならでは。
春の最初の華奢な筍の繊細さは貴重ですが、
夏へ向かう今頃の大きな筍は、伸びゆく力に満ちあふれています。
季節の移ろいと共に変化する野菜の力を堪能するのも楽しみのひとつですね。
丁度、連休前に裏庭に育つ筍を送っていただきました。
よほどの大鍋でないかぎりそのままは入りませんから、半分にざくっと切って鍋へ。
ひとつまみの糠を入れ、あれば唐辛子も加え、落し蓋をして茹でるのはご存じの通り。
最初のひと口はもちろん、薄味煮に含めた筍煮。
甘い香り香ばしさをかすかなえぐみが引き立てます。
含め煮にはほかの煮物に比べてたくさんのだし汁を使います。
筍ご飯も定番ですが、筍を食べ終わったこのだし汁で炊いた茶飯も秀逸。
微かに筍の香りが残り、ごく薄い塩気の素朴な茶飯。
木の芽を散せばいっそう上等ですが、無ければ無いで、それも美味。
大きな筍は軸の部分が多いのですが、軸が固めなら穂先とは別の料理に仕上げるのがお勧め。
ころころと5mm角程度に刻み、油でじっくり炒めます。
筍のおいしさのひとつ「香ばしさ」を一層引き立てるようにじっくり焼き目をつけましょう。
生ハムやベーコンなどをお好みで加え、冷やごはんを投入してさらにジックリ炒めます。
ピラフというよりは「焼き飯」のように、所々焼き色がつくまで、
焼き炒めするのが美味しさのコツ。
数滴の醤油と塩・胡椒で味を調えれば、出来上がり。
筍の始末料理のようになってしまいましたが、どちらも素朴で美味しいですよ。
冬の間、小さな庭はまるっきりの放置状態でしたが、
穏やかな日差と共に、少しずつ庭時間を作るようになりました。
みれば一面にやわらかな緑の芽が伸びていています。
雑草がほとんどなのですが、目立って広がっているのがセリ。
嬉しいことに丁度食べごろです。
数年前、冬に鍋でいただいたセリの根を挿しておいたのですが、
その名の通り「競るように」ぐんぐん陣地を広げています。
青果店でも通年出荷される水耕栽培ではなく、土で育った野性味を帯びたセリが
短い春の間「田ぜり」「野ぜり」などと呼ばれて店頭に並びます。
背丈は短く、大きさもまばらで、それぞれに根がついていて。
下処理に少々手間はかかりますが、
そのやわらかなほろ苦さ、野の香りは、春に一度は味わっておきたいもの。
たっぷりの水の中でじゃぶじゃぶと汚れを洗い流し、
根を短く切り落とし、食べやすい大きさに切り分けます。
香りも味も最大限に堪能できるのは「だし浸し」
だし汁を煮立てて薄く味を調えた所へ、ふわっと入れて箸でひと混ぜ。
煮えばなを香りの湯気と共にいただく小鉢です。
春も深くなったこの頃に美味しいのは、卵とじ。
少し甘めに整えただし汁でさっと煮て卵でとじるだけ。
野ぜりだけでは1パック使ってもわずかな量にしかなりませんので、
今回は麩がお供。油揚げや湯葉、厚揚げなどでもおいしくできます。
<材料>2人分
田ぜり50g 麩12g(もち麩20個) 卵2個
煮汁(だし汁150ml 醤油大さじ11/2 みりん・酒大さじ1 砂糖大さじ1/2)
麩は水に浸して柔らかくし、軽く絞ります。
卵は溶きほぐしておきましょう。
煮汁を煮たて、麩を加えてひと煮。
麩がふっくらしたらセリを加えてひと混ぜ。
煮すぎて香りが飛ばないよう、
しんなりしたらすぐに卵を回しいれます。
卵は、火の通りにくい鍋の中心から外へ向け、
らせんを描くように流しいれ、蓋をして火を止めます。
2~3分そのまま蒸らし、
とろとろの半熟に火が通れば出来上がり。
春は短い季節です。春の野の香りを食卓でも楽しんでみてはいかがでしょうか。